(2001.7.19)

講義: 統計物理学W (前期,4年生)


単位は出席とレポートをもとに出します. A4の用紙に書いてB545の扉にあるレポート入れにて提出してください.


レポート問題-1 (2001.4.19)

  1. 系が純粋状態にあることと, r 2 = r は同値である.
  2. 「エントロピー」を S = - kB Tr( r ln r ) と定義すると純粋状態の「エントロピー」は零になる.
  3. 任意の密度行列がハミルトニアンにしたがって r ( t ) = e - i H t r ( 0 ) e i H t と時間変化する場合には,「エントロピー」は時間的に一定である.


レポート問題-2 (2001.5.17)

ポテンシャル u( r) の中の理想気体を考える. 粒子 i のエネルギーは - u( ri ) である.
  1. N粒子の分配関数が
    Z( { u( r) } )= 1
    N !
    1
    lT3N
     qN
    と書けることを示せ. ただし (ブラウザによっては積分記号がうまく表示できないようなので S で代用した)
    lT 2 mkBT
    2p ( h/2p )2


    ,
    q S d3r eb u ( r)

  2. 自由エネルギー F( { u( r) } ) から,密度の平均値 < n( r) > を求めよ.
  3. 同様に密度ゆらぎの相関関数を計算し
    < d n( r) d n( r ) > = < n( r) > d ( r-r ) - 1
    N
    < n( r) > < n( r ) >
    となることを示せ.


演習問題-1 (pdf file, 19kB) (2001.5.31) 略解 (pdf file 41kB,2001.7.1訂正版)



レポート問題-3 (2001.7.12)

半年間の講義についての意見,感想などをA4版1枚程度にまとめよ.




授業についての質問,意見などは


講義日誌

2001年4月12日
第1回,密度行列とカノニカル分布の意味を説明する. はじめ机の並べ替えで手間取る.教室があふれそうになるが,ちょうどいっぱいで28名.あとは減るだけだろうからちょうど良い.

2001年4月19日
第2回,密度行列を使っての物理量の計算法. エントロピー演算子を定義し,その性質についてのレポート問題を出す. 授業後,エントロピー演算子というのは意味が良くわからないとの声, そうでしょう,どう考えても変ですよね.

2001年4月26日
第3回,物質の構造を探るために行われる散乱実験での微分断面積と密度相関関数の関係の話. 似たような相関関数が出てきて定義がややこしくていやになる. 出席者27名,一人ずつ減っているから最後は半分かな? 2回出席して今回欠席という人が6人もいる. 素粒子宇宙の人が多いようだ. せめて理論の人たちは分野にかかわらず出てきて欲しいのだけれど.

2001年5月10日
第4回,相関関数をふくめ物理量の期待値を計算するのに,空間的に変化する外場をかけて分配関数を計算すればよろしいという話. 終了時間になってしまい最後の相関関数と汎関数微分の対応が説明不十分で, あとから質問続出. 次回にちゃんと説明します. 連休明けで出席者は階段関数的に減り23名.

2001年5月17日
第5回,相関関数を自由エネルギーの汎関数微分で表現する話. 簡単な具体例をレポートの問題とした.ここからやっと具体的な物質系の話に入る 固体,液体,気体の相図を黒板に書いてもらったが臨界点のことを知らない学生が多いようだ. 出席者は21名.

2001年5月24日
第6回,分子のポテンシャルのモデルと液体の構造のやさしい紹介. Alder転移の話(説明は下に)が興味を引いたようだ. 学生に簡単な質問をいくつかする.これは眠気覚ましの効果があるのだが時間に追われるとなかなかできない. これからは講義内容を削ってでもやるようにしよう. 出席者は23名(単調減少則が破れた.理由はどうあれ,やる側としてはうれしい). 第1回のレポートは現在までの提出者15名.3番ができていたのはKT君だけでした. eA + B = eA eB となるのは A とB が可換なときだけということは知っていると思うのに,平気で(?)対数を分解している. 次回ていねいに説明します.

2001年5月31日
第7回. 前日に「明日は放射線取扱者の実習(?)があって授業に出られない」と言ってきた人がいたので急遽対策を検討,レポートの解説(pdf file, 16kB)演習問題(pdf file, 19kB)をやることにした. ついでに2次元ハードコアの模型を見せて2次元結晶作成の演習も行う. (この模型は私の師,碓井恒丸先生の遺品で地球の熊澤先生が作られた(作らせた?)ものとのこと.) 「無欠陥の結晶を作るのはなかなか難しいですよ」といったら,そのうち「できました」との声があがる. 「エ,エエッ,そんな簡単にできる?」 「流し込むようにやったらできた」とのこと,試みてみると確かにできる. ステップ流モード的に層成長をやるとうまくいく. 私が習得していたのは高温からの徐冷法で,これは短時間で結晶化するが温度制御にコツがいる. やはり結晶成長は奥が深い! 本日の出席者は,実習による欠席が多く14名. (欠席者で3分間モデル実験がやりたい人は申し出てください.)

2001年6月17日
第8回,固体と液晶の場合の散乱強度がどうなるかについての説明. 教室で携帯電話を持っていない者は私をふくめわずか3名のみ. これだけ世話になっているのに聞いてみると「液晶とは何か」を知っている学生が一人もいない. ある程度予想したこととはいえ物理の学生としては恥ずかしいではないか! 名大祭も終わって昨年度より2回分ほど進度が遅いが出席者は17名, 教育実習期間中であることを考えると歩留まりは予想以上.

2001年6月21日
第9回,凝集物質のとる構造のひとつとしてのフラクタル構造の説明,特に高分子の構造について. 時間が不足し,Flory自由エネルギーのエントロピー項の計算を飛ばしてしまった. せっかく昨日準備したところなので来週にでもやりましょう. 出席者21名(?),昨年同時期の倍近くいる(今年の4年生は熱心ですね!).

2001年6月28日
第10回,理想鎖高分子のエントロピーについて補足の説明をしたあと,秩序状態の記述法に進む. ていねいにやっているので遅れ気味. 数えてみるとあと3回しかないので,予定の「線形応答」と「確率過程」のどちらかを切り捨てざるを得ない.線形応答は量子力学IVでやる(やった?)らしいのであきらめましょうか. 出席者24名,名大祭,教育実習をへて例年ならば10人くらいにdecayしている時期なのに異様に多い.

2001年7月5日
第11回,外場を独立変数とした自由エネルギーから磁化を変数とした自由エネルギーへのルジャンドル変換とそれを使っての相関関数の計算法の復習. 演習問題の解答に間違いがあったので訂正しました. ランダウの相転移理論の解説. 教室はよいが往復の長い廊下が熱くてへばる. 出席者20名.

2001年7月12日
第12回. 第3回目のレポート課題を出す.第2回目の提出者が少ないので,今度は誰でもかけるようなもの(上を見てください). 講義は前回の続きで,ランダウ自由エネルギーを使っての相関関数の計算からはじめる. 線形応答の話は省略して,「拡散現象と確率過程」に入り,拡散方程式の現象論と格子上の原子の拡散の微視的な話.あと1回でどこまでいけるかな. 出席者22名.

2001年7月12日
最終第13回. ランジュヴァン方程式を使ったブラウン運動の話. ランダム力と摩擦係数の関係やアインシュタインの関係式などを導く. 時間が不足し途中の計算を大分省力してやっと結論の到達した. 出席者21名. ほんとうは第2回レポートの解説もやりたかったが,時間がないのでそのうちこのページに載せます.(国際会議の準備で多忙なので何時になるかわかりません. 会議録の編集の仕事は一区切りつけたが,90分のlectureの準備がまったくできていない.やれやれどうなることやら...) 4年生の皆さん,半年間ご苦労さま.レポートまだのものは遅くても8月中に出してくださいね.




剛体球の結晶化

エントロピーがいかに大切かをはっきり見せてくれる現象に剛体球(2次元なら円板)の結晶化がある. Alderは計算機シミュレーションによって,剛体円板からなる気体の密度を上げていくと,温度によらずある密度を越えたところから結晶化が起きることを発見した. パチンコ玉を箱に入れてゆすっていれば,きちんと並ぶ. このあたりまえのことが「原子のポテンシャルエネルギーの低い配置が結晶である」と考えていた人々を驚かせた. ふつうの物質では低温でエネルギー E が最低の結晶状態が実現し,温度 T の上昇とともに,エントロピーS が大きく自由エネルギー F = E - T S が小さな液体状態に変わる. 剛体球系では衝突以外には相互作用がないからポテンシャルエネルギーはどの状態でも常に零である(したがって気体と液体の区別はない). また運動エネルギーも,いつでも理想気体と同じ E = (3/2) N kBT である. したがってエントロピーが自由エネルギーの大小を決める. 温度を変化させると,粒子の速度が変わるので時間変化の速さは変わるが粒子の配置には何の影響も及ぼさない. 密度が高くなって窮屈になると乱れた配置から結晶の配置に変わるだけである. いいかえれば,でたらめに並ぶよりもきちんと並んだ方が自由に動ける空間が広くエントロピーが大きいためである. 「エントロピーは乱雑さを表わす」と思うと結晶のエントロピーが大きいというのは意外かもしれないが,エントロピーの大きい状態とは対応する微視的状態が多いということなので,必ずしもそれが不規則に見えるとは限らない.


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