エントロピーがいかに大切かをはっきり見せてくれる現象に剛体球(2次元なら円板)の結晶化がある.
Alderは計算機シミュレーションによって,剛体円板からなる気体の密度を上げていくと,温度によらずある密度を越えたところから結晶化が起きることを発見した.
パチンコ玉を箱に入れてゆすっていれば,きちんと並ぶ.
このあたりまえのことが「原子のポテンシャルエネルギーの低い配置が結晶である」と考えていた人々を驚かせた.
ふつうの物質では低温でエネルギー E が最低の結晶状態が実現し,温度 T の上昇とともに,エントロピーS が大きく自由エネルギー F = E - T S が小さな液体状態に変わる.
剛体球系では衝突以外には相互作用がないからポテンシャルエネルギーはどの状態でも常に零である(したがって気体と液体の区別はない).
また運動エネルギーも,いつでも理想気体と同じ E = (3/2) N kBT である.
したがってエントロピーが自由エネルギーの大小を決める.
温度を変化させると,粒子の速度が変わるので時間変化の速さは変わるが粒子の配置には何の影響も及ぼさない.
密度が高くなって窮屈になると乱れた配置から結晶の配置に変わるだけである.
いいかえれば,でたらめに並ぶよりもきちんと並んだ方が自由に動ける空間が広くエントロピーが大きいためである.
「エントロピーは乱雑さを表わす」と思うと結晶のエントロピーが大きいというのは意外かもしれないが,エントロピーの大きい状態とは対応する微視的状態が多いということなので,必ずしもそれが不規則に見えるとは限らない.