物理学とは何だろうか 上,下 朝永振一郎,岩波新書
ノーベル賞受賞者の著者の絶筆となった未完の書.
結果のみを分かりやすく伝える本が多い中で,物理学が作られていく過程の論理を追った名著.
縦書きの本だが「物理学生への注」もあり考察は深い.
一緒に収録されている講演記録「科学と文明」は,現代科学のあり方と21世紀の物理学の行方につ
いての見解も興味深い.
量子力学とはなんだろう 長岡洋介,岩波ジュニア新書
私の恩師の一人である長岡先生は長岡強磁性,近藤効果の研究などで高名で,
非常に分かりやすい教科書を書くことで定評がある.
著書を電磁気学や統計力学の教科書として採用したが,あまりに明快でこちらが解説する余地がなくなってしまうのが難点だと思ったくらい.
この本も量子力学の世界の不思議と,その量子力学の法則が私たちの周りの物質界を支配していることを,個人的体験を交え平易に語ってくれる.
だれが原子をみたか 江沢洋,岩波科学の本
本屋では品切れのようなので,生協の店頭には並んではいない.
図書館か古本屋を探すことになるがじつに面白い本である.
ギリシア自然哲学からペランの実験にいたる原子論の歴史を中高生のために書いたものだが,
高校生向けだからといって甘く見てはいけない.
統計物理学の基本の考えが詰まっていて,アインシュタイン理論の解説にまで及ぶ.
また中にでてくる,子供たちによる秋川渓谷での水柱の実験は実験物理学の醍醐味と感動を教えてくれる.
ファインマン物理学 I 力学, II 光,熱,波動 R.P.ファインマン,岩波書店
物理の全分野をカバーするテキストで最も面白いものと,最も優れたものを挙げよと言われたら,
ためらうことなくファインマンとランダウ=リフシッツの名をあげる(同じ意見の物理屋は多いはず).
後者は凡人ではなかなか全部は読めないし,内容が高度なのでここでは勧められない.
ファインマンはスペースシャトル「チャレンジャー」事故原因究明の立役者でもあり,ユーモアあふれる天才科学者.
講義録の最初を飾る本書は微分も知らない高校生を物理の世界に導いてくれる.
ただしこのシリーズの本だけでは話がつながらないところも多いので,本格的に学ぶには他の教科書も必要.